By Grant McCloud, Director, Loyalty Strategy



スマートフォンは、ロイヤリティプログラムにおいて会員との繋がりを強めるもっとも重要なチャネルだ。

米国では、スマートフォンは日常生活に欠かせない必需品となっており、国民の77%以上がスマートフォンを所有しているという調査結果もある。(*1)


しかし、スマートフォンを愛用する人が、スマートフォンにインストールされているアプリに対しても同じように愛着を持っているかというと、必ずしもそうではない。アプリ使用状況に関する調査(*2)によると、アプリを1回利用してそれ以降利用していない経験があるユーザーの割合は21%から25%にも及ぶという。スマートフォンの普及とともに、顧客とどこでもコミュニケーションをとることの重要性がますます高まりつつあるのに伴い、アプリを提供する企業は多くなってきているが、アプリを継続利用せずに放置または削除するユーザーの割合は減っていない。


ブランド戦略上スマートフォンの活用は必須だが、アプリの開発が必須というわけではない。マーケティング担当者が、自社のロイヤリティプログラムにとって最善で適正なモバイルエンゲージメント戦略を見極めることができるようになるには、アプリの効果とコストを理解することが必要だ。


品質の低いアプリはロイヤリティプログラムの価値を下げる


適切なロイヤリティプログラムと適切なアプリの組み合わせは非常に強力だ。しかし、すべてのプログラムで、アプリ開発費用と運用費用への投資に見合う効果が実現できているかというとそうでもない。開発を急ぎ、品質の低いアプリをリリースすると、かえって損失をもたらすこともある。否定的な口コミやマイナス評価は、ブランドのモバイルにおける評判を地に落としかねない。App Attrition Index 2017(アプリ放棄指標2017)によると、ユーザーの80%が、正しく動作しなかったことを理由にアプリを削除、次いで53%が、1回利用した後にパフォーマンス上の問題でアプリを削除している。


アプリ開発を始める前に考慮すべき重要要素:


ロイヤリティプログラムに効果をもたらすアプリを実現するためには、開発前にアプリの構想を実施し、下記の要素を十分検討する必要がある。


ブランド力


貴社のブランドは会員にアプリをダウンロードさせて、彼らのスマートフォンの中に削除されずに居続けることができるほどの存在感があるか。競合他社は何をしているか。他ブランドはアプリを活用しているか。


アプリはどのようにカスタマージャーニーを改善するか


会員のカスタマージャーニーの改善の取り組みにアプリがどれほど寄与するか。動画やコンテンツはユーザーにとって刺激的が本当にロイヤリティプログラムやブランドの宣伝に必要なものか。アプリは会員のプログラムやブランドに対するエンゲージメントを向上させるものか。顧客にモバイルから小切手入金を可能にした銀行のアプリや、モバイルオーダーができるスターバックスのアプリはカスタマージャーニーをアプリで改善している良い事例である。


顧客分析の実施


アプリ開発には何十万ドルと大きな費用がかかる。そのため、アンケート調査やUXテストに投資して構想の妥当性を判断することが必要だ。アプリ開発を急ぎ、憶測で進めることはせず、今一度ロイヤリティプログラムとそれに参加している会員に目を向ける時間を確保してほしい。ロイヤリティプログラムはアプリに必要な機能を明らかにするだけではなく、会員はどのようなデバイスを使用しているか、市場に似たようなニーズを満たすアプリが存在しているか、開発しようとしているアプリは本当に会員が欲しい/必要なものであるか、といったような重要で戦略的な確認項目の検証になるはずだ。


継続的な投資


アプリの更新・改善に継続的に投資していく意思はあるか。アプリは継続的な保守とパフォーマンス向上に加えて、改善・進化をし続ける必要があるということを予め認識しておく必要がある。


アプリを用いれば、ユーザー一人ひとりを区別して個別にアピールすることが可能


いざアプリ開発を決定したら、アプリの特性を最大限に活かし、顧客との対話をOne to Oneマーケティングから、よりリアルタイムなレベルのOne to Momentへと進化させよう。One to Momentマーケティングは、特にロイヤリティプログラム会員との継続的なエンゲージメントの強化に効果的である。マーケティングに活用できるアプリの主要な機能には以下のようなものがある。


プッシュ通知とメッセージング


使いやすく、導入しやすいプッシュ通知は、既存のコミュニケーションを補うだけでなく、一人ひとりの状況に応じたリアルタイムな対話を可能にする。会員は通知の許可/拒否を選択することができるため、通知を許可している会員はアプリとアプリのコンテンツに対してエンゲージメントが高い傾向にあると言える。また、適切なダッシュボードがあれば、会員の操作時間、使用デバイス、使用状況といったカスタマーインサイトを得ることが可能になり、そこで得られたインサイトをメッセージ戦略に反映することで、継続的な改善が実現できる。旅行業界は、この通知を非常に上手く活用しており、旅行者に重要な情報を知らせるのに役立てている。Hilton社は会員にチェックインが可能なタイミングでプッシュ通知を利用している。会員は通知を受け取ると、部屋を選択し、(利用可能な施設の場合は)デジタルキーを受け取ることもできる。


パーソナライゼーションの高度化


アプリ内とメッセージ内のコンテンツは、会員の関心事、場所、用途などに基づいて個別にパーソナライズすることができる。ロイヤリティ会員は、自身のアカウント情報を簡単に参照でき、アプリ側もそれを活用する。例えば、会員の関心の高い特典ポイント残高などの情報は、アプリ全体とメッセージ戦略において常に表示するコンテンツとして活用できる。


購入時の手続き簡素化


ロイヤリティプログラムの課題のひとつが、レジでの購入手続きに要する時間の増加である。プログラムへの入会手続きや、会員番号の確認など、購入手続きの遅延を伴うプログラムの導入に対して、小売業者は躊躇する。特に混雑している時間帯や既に待ち行列ができている場合に発生するなら尚更だ。このような課題にアプリを活用することが必要だ。プログラムへの入会登録は、アプリを使えば素早く簡単に行える。レジでアプリを提示すれば、従来のように会員のIDを検索する必要がなくなり、大幅に時間の短縮につながるとともに、引き続き会員の購買行動をトラッキングすることができる。アプリに表示されたバーコードをPOSでスキャンをするだけで、購入者の会員情報を取得し、トランザクションを発生させることができるのである。米国のセブンイレブンで展開しているロイヤリティプログラム"セブンリワード"では、会員IDを取得してポイントを獲得するためには購入時にアプリをスキャンする必要があるが、会員はアプリを開いてスキャンするだけで良いため、購入手続きへの影響は最小限である。


スマートフォンテクノロジーの有効活用


タブレットでもスマートフォンでも、そのテクノロジーを活用することでアプリは新しい形のエンゲージメントを可能にする。カメラ機能を活用した商品のスキャンや写真のアップロード、GPS、スマホ決済、タップコール、チェックインなどは利用可能なテクノロジーの一部である。米EXPRESS社(大手アパレル)は、「トレンド・スナップ」という機能を自社アプリに実装した。これは、スマートフォンのカメラで自分の好みのファッションアイテムを雑誌や街中から写真を撮影すると、アプリがEXPRESSで販売中の商品から類似するアイテムを検索し、会員に提案してくれる機能である。これにより、会員のパーソナライズされた買い物体験を実現した。


ソーシャルコンテンツへのアクセス


ソーシャルメディア利用者10人中9人が、普段利用するSNSへのアクセスにスマートフォンを使用している(*3)アプリはSNSへアクセスしやすく、会員はアプリを介してコンテンツや情報をシェアすることができる。さらに、ユーザーが作成したコンテンツはマーケティングコンテンツの新たな可能性を広げるものとなる。


動画マーケティング


動画コンテンツおよび動画マーケティングが急速に伸びたのは、モバイルデバイスの貢献が大きい。動画はブランドに活気を与え、幅広いマーケティング機会を得ることができる。ハウツー動画から、ショートストーリー動画、ユーザー作成動画まで、動画マーケティングは真実性と信頼性を加えることができる。米GameStop社は、動画マーケティングにより同社ロイヤリティプログラムPowerUp Reward(パワーアップリワーズ)での会員への情報提供を工夫し、活発化している。動画では、カンファレンス、ビデオゲームの発売、著名人のインタビュー、および業界ニュースなどといったイベントを数多く取り上げており、会員はゲームの最新情報に精通することができる。同社は、自社のソーシャルマーケティングとエンゲージメント全体にわたっても、これらのコンテンツを活用している。


結論


スマートフォンを通じたモバイルエンゲージメントは今日のロイヤリティマーケティングにおいて不可欠であるが、しかしながら、容易にアプリ開発の波に飛び乗るべきではない。パフォーマンスの悪いまたは評価の低いアプリがあると、ロイヤリティプログラムのイメージに多大なマイナスの効果を及ぼしかねない。プログラムはアプリが会員に対して提供することのできる付加価値を見極め、その付加価値を軸に開発をするべきだ。そのようにして開発された適切なアプリであれば、ロイヤリティプログラムのレベルは格段に進化し、会員との真のパーソナルで継続的なエンゲージメントが実現し、取引の増加を促進することができるだろう。




参照:

(*1) Mobile Fact Sheer. Pew Research Center, February 5, 2018

(*2) Localytics社調べ

(*3) Special Reports - Digital in 2018:World's Internet Users Pas the 4 Billion Mark. We Are Social, January 30, 2018